親権とは
「親権」とは、未成年の子どもに対する親の責任や義務のことをいます。
親権を有している親のことを「親権者」といいます(離婚して親権を失った親は親権者ではありません。)
未成年の子どもがいる場合、離婚する際に子どもの親権を行使する者を、父か母かどちらにするかを定めない限り離婚をすることはできません。離婚届にも、親権者を書く欄があり、これを空白にしたまま離婚届を出すことはできません。
親権者を決める手続きの流れ
離婚には協議離婚(夫婦で話し合って離婚届を出す離婚)、調停離婚(調停員を間に挟んで夫婦で話し合う離婚)、裁判離婚があります。
参考:離婚の3つの方法:協議離婚・調停離婚・裁判離婚ってなに?
それぞれの離婚の過程で、親権者を誰にするか定めます。
夫婦の話し合いで決める(協議離婚)
夫婦で話し合い、離婚することを両者が同意した場合に、離婚届を提出し離婚が成立する場合を協議離婚と言います。世の中の離婚の90%近くが協議離婚です。
夫婦が協議離婚をする場合に、未成年の子がいるとき、その一方を親権者と定めなければなりません。
離婚届には、子の親権者を指定する欄が設けられています。そして、役所では、離婚届に未成年者の親権者が定められていないと受理してもらえません。
離婚や、親権者を誰にするかという争いで、子どもを傷つけるのは避けなければなりません。そこで、裁判所が「子どもにとって望ましい話し合いとなるために」という動画を公開しているので、参考にしてください。
夫婦だけでの話し合いがまとまらない場合の調停離婚
夫婦で話し合いをしても相手が離婚に応じない場合や、夫婦の両方が離婚自体は了解しているけれども、子の親権や財産分与の額などの離婚の条件でもめている場合などは、夫婦の一方が家庭裁判所に離婚調停の申し立て(申込み)をします。
離婚調停は家庭裁判所で調停委員という人(通常は男女2人)に夫婦の間に入ってもらって話し合います。
調停離婚は、調停委員が夫婦の間に入りますが、何か命令したり判決をしたりすることができるわけではありません。夫婦で離婚することや離婚の条件に同意しなければ調停離婚は成立しません。
離婚全体の約10%を占めるのがこの離婚方法です。
夫婦だけの話し合いで、親権者が決まらない場合は、離婚調停で、親権者を誰にするか話し合います。
最終的には離婚訴訟で裁判所が親権者を判断する
調停を行っても、夫婦の話し合いで離婚するかしないかが決められない場合や、離婚することは夫婦で決めていても親権や慰謝料などの話し合いがまとまらない場合、夫婦の一方が家庭裁判所に離婚の訴え(離婚訴訟”りこんそしょう”ともいいます)を起こす事を離婚裁判といいます。
夫婦だけの話し合いがまとまらず、協議離婚が成立しない場合であっても、いきなり離婚訴訟をすることはできません。離婚裁判をする前には、必ず離婚調停をする必要があります。離婚調停がうまくいかない場合に、初めて離婚訴訟をすることができます。
離婚訴訟が行われるのは離婚全体の約1%程度です。
夫婦だけでの話し合いや離婚調停で親権者が決められない場合は、離婚裁判で裁判所が親権者を誰にするかを決めることになります。
離婚調停や離婚裁判の前に行われる調査
家庭裁判所の調査官による調査ってなに?
離婚調停や離婚裁判で親権者を誰にするか争われている場合、現在の子どもの状況やを子育ての状態がどうなっているのかを調べる必要があります。
そこで裁判所(裁判官)が、家庭裁判所の調査官に調査を命じて、子どもの状況やを子育ての状態について調査をさせることが多いです。(親権が争われているすべてのケースで調査がされるわけではありません。)
家庭裁判所での親の調査、子の通う保育園、幼稚園、小学校などの調査、家庭訪問調査、子の意向調査などが行われます。
離婚裁判で、親権者を誰にするかについて最終的な判断をするのは裁判所(裁判官)です。しかし、家庭裁判所調査官は、専門家の立場から公平に調査し意見を述べるので、親権者の判断においては、家庭裁判所調査官の作成した調査報告書が持つ影響力は大きいです。
そのため、家庭裁判所調査官に、自分が親権者にふさわしいことをアピールできるかが重要になってきます。
親権者として認められるためのポイント
協議離婚や調停離婚で夫婦で話し合って親権者を決める場合には、親権者となるための条件などはありません。
ただ、離婚裁判で親権者を決める場合には、裁判所が判断するポイントがいくつかあります。
母親が親権者として認められやすい
離婚後は母親が親権者となることが非常に多いです。
母親が親権者となるのは全体の約9割、父親が親権者となるのは約1割程度です。子どもが小さい場合は特に母親が親権者と認められやすいです。
現在、誰と生活しているかが重要(現状維持の原則)
子どもの利益のためには、子ども生活環境はなるべく現状のまま維持したほうがいいとされています。環境を急に変えると子どもにストレスをかけるからです。
そのため、裁判所が親権者を決定する際には、原則として現在、子どもを養育している親を親権者とするという現状維持の原則がとられています。
つまり、子どもを虐待しているといったような特別な事情がない限り、現在、子どもを養育している親が親権者として指定されるケースがほとんどです。
したがって、離婚後に、親権を得たいと考えている場合は、子どもを相手に預けて別居することがないようにしてください。子どもをつれて、別居するようにしてください。
子どもの意見
誰が親権者と指定されるかについては、子ども自身の意見も重要になります。
特に子供が15歳以上の場合、家庭裁判所は子どもの意見を聞かなければいけないことになっています。
離婚の責任がある者は親権者になれるか?
不倫など、離婚の原因を作った側であっても、親権者になれます。
親権者を誰にするかは、子どもの利益を第一に考えるので、子どもを養育するのにふさわしいかで判断されるのです。
経済力がない親は親権者になれるか?
子どもの学費や生活費など、養育していくために必要な収入が定期的に得られる経済力は親権者にとって重要な事柄のひとつです。
しかし、専業主婦(専業主夫)である、パートでしか働いていないなど、経済力に不安がある場合でも、養育費や親族(祖父母など)からの援助などを考慮されて、親権を得られる場合も多いです。
その他、親権者となるために考慮されるポイント
子どもへの愛情
子どもと過ごした時間が長い方が子どもに対する愛情が大きいと判断されます。
親が精神的・肉体的に健康か
健康状態が良好でない、精神的に不安定な面がある、性格に異常な側面があるといった場合には、親権者としてふさわしくないと判断されるおそれがあります。
子育てに十分な時間がさけるか
子どもと一緒に過ごせる時間が多いと、親権者として選ばれやすい傾向にあります。
これまでの子どもへのかかわり方
これまでの子どもの養育の実情、教育への関わり方や子どもとの接し方からも、子どもに対して適切な養育ができる親かどうかが判断されます。
したがって、夫婦が別居している場合、現在、子どもと同居している親の方が有利なのです。
今後、子どもに適切な環境や教育を与えられるか
特に、子どもが幼い場合には、親が子どもと過ごせる時間が多いほうが子どもによってよい環境であるといえます。そのため、子どもが幼ければ幼いほど、親権の争いについては母親が有利といわれています。
兄弟関係
兄弟姉妹を引き離なすことが妥当かも判断の材料になります。
親権を得るために重要なこと
別居をする際には、子どもを置いていかない
子どもが小さいうちは母親が親権者になることがほとんどです。しかし、母親が子どもを置いて家を出ていき、子どもが父親との生活をしばらく続けていた場合は、父親が親権者として認められやすいです。
したがって、親権を望む場合は、夫婦で別居する際には、子どもと同居するようにしてください。
離婚調停では、調停委員を味方につける
離婚調停の際には、男女1人ずつの調停委員が夫婦を交替で調停室に呼んで、それぞれの主張を聞くことで、夫婦での話し合いを行います。
調停委員は夫婦の間に入るだけであって、夫婦で合意をしなければ調停離婚は成立しません。調停員が誰が親権者にふさわしいか判断を下すわけではありません。
しかし、調停委員を味方につければ、相手を説得してもらい、自分の有利に調停を進めることができます。
調停員はお年寄りも多いので、古い自分の考えを押し付けてきたり、法律の専門家ではない人が多いので法律の正しい知識がなかったりと、問題のある人もいます。それでも、謙虚に調停委員の話を聞いて、ていねいに自分の主張を伝えることにより、調停員を味方にするように努力してください。じぶ
調査の際に自分が親権者にふさわしいことをアピールする
離婚調停や離婚裁判で親権者を誰にするか争われている場合、家庭裁判所の調査官が子どもの状況やを子育ての状態について調査することがあります。
その調査の際に、しっかりと、ご自分が親権者としてふさわしいことをアピールしてください。
親権者と監護権者を別の者にできる?
親権には監護権と財産管理権がある
監護権(身上監護権)
「身上監護権」は「監護権」とも呼ばれ、子どもの近くにいて、子どもの世話や教育をする親の権利・義務のことです。
居所指定権(子どもが住む場所を指定する権利)、懲戒権(子どもに対し親がしつけを行う権利)、営業許可権(子どもが職業を営むにあたって親がその職業を許可する権利)、身分上の行為の代理権(15歳未満の子の氏の変更・相続の承認・放棄・20歳未満の結婚(令和4年に廃止)・養子縁組など身分法上の行為の代理・同意を行う権利)などが含まれます。
財産管理権
子どもが所有する財産を管理して、子どもに代わり法律行為ができる権利のことです。
子どもの通帳や預金を管理することができます。
また、子どもが、親権者の同意なく何かを売買するなどした場合、原則として親権者はその行為を取り消したりすることができます。
親権者と監護権者を別の人にできる?
このように、監護権(身上監護権)は、子どもの近くにいて、子どもの世話や教育をする親の権利・義務のことです。
離婚で親権者となった者が、子どもの監護権と財産管理権の両方を負担するのが原則です。
ただし、親権者と監護権者を別の人にすることもできます。例えば、親権者は父親にして父親が子どもの所有する不動産や預金といった財産の管理をしますが、監護権者は母親にして母親が子どもと住んで子どもの世話をするといったことができます。
協議離婚や調停離婚の場合は、夫婦で話し合って、裁判離婚の場合は裁判所が、父親・母親のどちらか一方のみを親権者とするか、あるいは親権者と監護権者を別にするかを決めます。
親権者と監護権者を別の者にするのは、非常に例外的な場合です。
別の者にした場合、親権者は子どもの財産管理をし、監護権者は子の日常の生活や教育を行うこととなります。これは子どもに混乱を生じさせる可能性もあるので、親権者と監護権者を別の者にしてよいのかよく考える必要があります。
親権者でない親と子供の面会交流
面会交流とは、離婚や別居によって子どもと離れて暮らしている父母の一方が子どもと定期的、継続的に、会って話をしたり、一緒に遊んだり、電話や手紙などの方法で交流することをいいます。
離婚により親権者とならなかった方の親(あるいは別居している親)は、子どもとの面会交流を求めることができます。
面会交流について詳しくは…離婚で子どもと別居する親が子どもに会うには?(面会交流)
離婚前に子どもを連れて別居された場合はどうする?
離婚協議中に子どもを連れて別居されてしまうと、離婚裁判になった場合、子どもと別居している方の親は親権者として認められにくくなります。離婚後に子どもの環境を変えることや子どもにとって良くないので、同居しているほうの親が親権者として有利だからです。
だからといって、同居している親に無断で幼稚園や小学校から連れ出したり、子どもを待ちぶせして連れ去ったりというような強硬手段にでた場合、離婚裁判で親権者として不適格だと判断されてしまう可能性もあります。
そこで、早急に家庭裁判所に子どもの引き渡し請求の調停を申し立てた方が良いです。
緊急性がありますし、法的手続きが難しいので、この場合は弁護士に依頼したほうが良いです。