だから、離婚をするときに養育費をきちんと決めること、そして、養育費を決めたら支払いを確保できるように準備しておくことが重要です。
1.養育費とは
離婚する夫婦の間に未成年(0歳~17歳)の子どもがいる場合、その子どもの「親権」を夫か妻のどちらかに決める必要があります。
親権がある親(親権者)は、親権がない親に対して、子どもを育てていくための費用を請求することができます。この費用を「養育費」といいます。
母親が親権者となって、養育費は父親が母親に払う場合が多いです。
しかし、父親が子どもの親権者として世話をしている場合は、母親が養育費を支払うことになります。
2.養育費を決める手続きの流れ
離婚をする際に、養育費も決めることが多いですが、先に離婚をして、その後に養育費を決めることもできます。
なので、できるだけ離婚の時に養育費についても決めるようにしてください。
2-1.離婚の時に養育費を決めましょう
離婚には、大きく分けて
・協議離婚(夫婦が話し合って離婚届を出す方法による離婚)
・調停離婚(家庭裁判所で調停委員を間にはさんで夫婦で話し合って行う離婚)
・裁判離婚(裁判で行う離婚)
の3種類があります。
協議離婚・調停離婚・裁判離婚の際に、養育費を決めることができます。
2-2.離婚後に養育費を決めることもできる
養育費について決めずに離婚が成立した場合であっても、離婚後に養育費を決めることもできます。
その際には、
・父親と母親で話し合って養育費を定める方法
・調停で定める方法
・審判で定める方法
があります。
父親と母親で話し合って養育費を決める方法
まずは相手方に連絡を取り、話し合いで養育費の支払いを決めていきます。
話し合いで養育費が決められた場合は、「執行認諾文言(強制執行認諾文言)」という文章が書いていある「公正証書」という形にしておくと、相手が支払わない場合は、財産を簡単に差し押さえて、そこから養育費の支払いをうけることができます(=強制執行)。
公正証書は、公証役場に足を運んで公証人の立会いの元、作成します。
養育費請求の調停
父親と母親の話し合いで養育費について決められない場合は、家庭裁判所に養育費請求の調停を申立てることができます。
父親と母親の間での話し合いをせずに、いきなり調停を申し立てることもできます。
- 調停では、調停委員が当事者同士の間に入り、父親と母親双方から収入の状況や子どもの状況などを聞き、話し合いで養育費を決めます。
養育費請求の審判
調停で父親と母親で養育費について話し合っても決着がつかない場合は、手続きは自動的に審判へと移行します。
養育費請求の審判では、裁判官が養育費の支払い方法や金額などを決めます。
3.養育費に関して決めること
離婚の際に養育費を決める場合も、離婚後に養育費を決める場合も養育費に関して以下のことを決める必要があります。
①養育費の金額
子どもが何歳になるまで支払うといった期限を定めます。
4.養育費の金額
4-1.裁判所が養育費を決める場合の金額
裁判離婚で離婚するときに養育費を定める場合や、離婚後に審判で養育費を定める場合り(=離婚後に養育費を請求する調停をしたけれど、話し合いで決まらずに審判になった場合)は、「養育費算定表」の額を参考に、裁判官が養育費を定めます。
しかし、父親あるいは母親が特別な事情があることを裁判官に主張すれば、算定表よりも高額、あるいは低額の養育費が認められることもあります。
4-2.「養育費算定表」とは?
裁判所が定めた、養育費の基準を計算するための表です。
養育費を払う側の収入、養育費をもらう側の収入、子どもの人数などから、養育費が計算できます。
あなたの養育費のシュミレーション
あなたの場合、養育費算定表だと養育費はいくらになるかシミュレーションしてみましょう
→シミュレーションはこちら
*① 給 与 所 得 者 の 場 合
源 泉 徴 収 票 の 「 支 払 金 額 」 (控 除 さ れ て い な い 金 額 )を「年収」として入力してください。他 に 確 定 申 告 し て い な い 収 入 が あ る 場 合 に は , そ の 収 入 額 を 年収に足して計算してください。
*② 自 営 業 者 の 場 合
確 定 申 告 書 の 「 課 税 さ れ る 所 得 金 額 」 を 年 収 として入力してください 。
* 児 童 扶 養 手 当 等 に つ い て
児 童 扶 養 手 当 や 児 童 手 当 は それぞれの年 収 に 含 め る 必 要 は あ り ま せ ん 。
4-3.父母の話合いで養育費を決める場合の金額
養育費を協議離婚、調停離婚の時に話し合いで決める場合や、離婚後に話し合いあるいは調停で養育費を決める場合は、養育費をいくらにするかは父母の自由です。
父母で話し合って、養育費をゼロとすることも可能ですし、養育費算定表よりも高額、あるいは少額の養育費にすることもできます。
話し合いで養育費の額が決まらない場合は、「養育費算定表」で計算した額を参考に養育費を決めるとよいと思います。
「話し合いがまとまらなくて裁判になった時は養育費算定表の金額になります!」と主張して、きちんと養育費を支払ってもらえるように金額を決めましょう。
5.養育費の支払い期間
ここでは、裁判や審判で裁判所が養育費を決める場合について説明します。
5-1.養育費はいつからもらえるの?
裁判あるいは審判で養育費を決める場合は、原則として養育費を請求した時点以降からもらえることになります。請求した時点より前の養育費は認められません。
5-2.養育費はいつまでもらえるの?
原則は子どもが20歳になるまでもらえる
裁判あるいは審判で養育費を決める場合は、養育費が請求できるのは、原則として子が20歳になるまでとされています。
ただし、養育費を請求した時点で子ども大学に進学しているケースなどでは、卒業時までの養育費を命じることもあります。
たとえば、以下のような定め方をします。
「子どもが大学に進学する場合には、大学を卒業する月まで養育費を払う」
「子どもが22歳に達した後に到来する3月末日までを養育費の支払い期間とする」(つまり、浪人や留年をした場合には、卒業前であっても養育費を支払わないということです)
子どもに障害がある場合はいつまで?
裁判や審判を養育費を定める場合は、原則として20歳までですが、養育費支払期間を20歳よりも上の年齢にし、その代わり金額を減額することで調整するケースもあります。
6.養育費の支払いは分割?一括?
6-1.父母の話し合いや調停で決める場合
通常は毎月払い
協議離婚における話し合いあるいは離婚調停、離婚後の話し合いあるいは調停で養育費を決める場合、毎月払いとすることが多いです。
養育費は、子どもが生活するために日々発生する費用ですから、その性質上、定期的に支払われる必要があるからです。
一括払いにすることもできる
父母の話し合いによって養育費の支払い期間の全期間分の一括払いとすることもできます。
養育費の支払いは長期間行われるため、その間に滞納が生じたり、全く支払われなくなってしまったりすることが多いです。
このため、離婚のときに一括払いで全期間分の養育費が支払われることは、養育費を受け取る側としては有利です。
6-2.裁判や審判で裁判所が養育費を定める場合
裁判離婚で離婚する際に養育費を定める場合や、離婚後に審判で養育費を定める場合は、養育費の毎月払いとすることが多いです。
6-3.養育費の支払先
支払口座については、相手方名義の口座宛てに振り込むことが一般的ですが、子ども名義の口座を開設し、その口座宛に振り込む方法も可能です。
7.養育費の増額・減額
7-1.養育費は決めた後で増額・減額できるの?
そんな時は養育費の増額や減額を請求できることもあります。
父親と母親の話し合いで増額や減額をすることができる
父親と母親との話し合いをして、両方の合意を得られれば、養育費の増減や減額をすることができます。
この場合、話し合いの内容は公正証書にした方が良いです。公正証書にすれば、養育費が支払われない場合、比較的、簡単な手続きで相手の財産を差し押さえてそこから支払いを受けることができるからです。
すでに養育費について公正証書が作成されている場合でも、その内容を変更することにより増額あるいは減額を公正証書の形で残しておくことができます。
家庭裁判所の調停
養育費の増額や減額についての父親と母親の話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所に対して調停申し立てることもできます。
家庭裁判所の審判
家庭裁判所で調停を行っても両方の意見がまとまらない場合は、自動的に家庭裁判所での審判へと移ります。
審判では家庭裁判所が増額・減額するべきかを決めます。
7-2.子どもと面会させてもらえない場合は、養育費の減額を請求できるの?
父親や母親が話し合いや調停で合意すれば、どのような理由の増額・減額も認められます。
裁判所が審判で決定する場合は、子どもと面会させてもらえないからといって減額を請求することができません。
養育費は親が子どもを養う義務があるために、支払わなければならないものであり、養育費と面会は別の問題だからです。
7-3.養育費を支払う側の減収や受け取る側の増収があった場合は、養養育費の減額を請求できるの?
父親や母親が話し合いや調停で合意すれば、どのような理由の増額・減額も認められます。
もっとも、裁判所が審判で決定する場合は、養育費を支払う側の減収や受け取る側の増収があった場合は、養育費の減額される可能性があります。
養育費は夫婦の年収が基準のひとつとなっています。
そのため、養育費を支払う側の収入が大きく減った時や失業して無収入になった場合、現時点の収入に応じて減額することが可能なのです。
養育費を受け取る側の収入や資産が大幅に増えた場合も、減額できる可能性があります。
8.どちらかが再婚したら養育費はどうなるの?
8-1.再婚したら養育費の支払いは終了するの?
養育費を支払う側や受け取る側が再婚しても、父母と子どもとの関係がなくなるわけではないので、原則として、養育費の支払いは終了しません。
しかし、父親や母親が話し合いや調停で合意すれば、どのような理由の増額・減額も認められます。
家庭裁判所の審判で、養育費の支払い終了や減額が認められる場合もあります。下記で具体例を紹介します。
8-2.具体例:再婚後の養育費(裁判所が審判で決める場合)
父親=親権者、母親=養育費を支払う側の場合は、父親と母親を入れ替えて読んでください。
母親(養育費をもらう側)が再婚した
新しい父親と子どもが養子縁組をした場合
新しい父親の収入が高ければ、実の父親の養育費がゼロになるあるいは減額されることもあります。
新しい父親と養子縁組をしない
養育費の減額は認められません。
父親(養育費を払う側)が再婚した
再婚相手が専業主婦である場合や再婚相手との間に子どもが生まれた場合や再婚相手の連れ子と養子縁組をした場合
これらの場合は、父親は新しい家族も養わなければならないので、養育費の減額が認められる場合もあります。
これ以外の場合
養育費の減額は認められません。
9.決められた養育費が払われない場合はどうする?
9-1.養育費が支払われない場合は多い
現在、母子家庭のうちで、養育費をの支払いを受けている家庭は全体の4分の1しかありません。
養育費の支払いを受けていない人が多いのは、離婚するときに養育費の取り決めをしていないケースが多いからです。
母子家庭の約半数が離婚をするときに養育費の取り決めをしていません。
離婚を成立させる際には、できるだけ養育費も決めた方が良いですし、離婚の際に養育費について定めていなくても離婚後に養育費を請求することができます。
また、養育費を決めたのに、相手が支払わない場合も非常に多いです。
9-2.養育費を決めたのに、支払われない場合にできること
●養育費の履行勧告
裁判所が相手に養育費を支払うように連絡すること
●養育費の履行命令
裁判所が相手に一定の期限を定めて支払うように命じること
●強制執行
相手の財産を差し押さえてそこから支払いを受けること
●養育費の保証会社を利用する
養育費の支払いがない場合に、保証会社が相手に支払いをさいそくしてくれたる。支払がない場合は、保証会社が養育費の立て替え払いをしてくれま。
強制執行をすれば相手の財産を差し押さえて、そこから支払いを受けることができます。強制執行をする場合は、個人でやるのは難しいので、弁護士に依頼したほうがいいです。
9-3.養育費の履行勧告・履行命令
養育費について決めたのに、相手から支払がない場合、家庭裁判所に履行勧告をしてもらうように申立てをすることができます。履行勧告があっても養育費を支払わない場合は、家庭裁判所へ履行命令を申立てることができます。
履行勧告・履行命令ができる場合
履行勧告・履行命令は、家庭裁判所の調停や審判で養育費の具体的な取決めが行われた場合のみ利用できます。
父親・母親の話し合いで養育費の取り決めをしただけで、調停や審判で決められたのではない場合は、履行勧告・履行命令は利用できません。
履行勧告の効果
履行勧告では、裁判所から相手方に電話や書面などで、支払うように勧告をします。
しかし、履行勧告に従わなくても、相手に支払いを強制することはできません。
履行命令の効果
裁判所が一定の期限を定めて支払うように命じます。
それでも、相手方が履行命令に従わない場合、10万円以下の過料を支払わなければなりません。
履行勧告・履行命令を行う方法
履行勧告・履行命令は、養育費についての調停や審判を行った家庭裁判所に申し立てをしますが、申し立て方法は裁判所ごとに異なります。
くわしくは調停・審判手続を行った家庭裁判所に確認してください。
履行勧告・履行命令の費用
履行勧告・履行命令を行うのに費用はかかりません。手続きも簡単です。
9-4.強制執行をすれば財産を差し押さえることができる!
ただ、個人で強制執行を行うのは難しいから弁護士に依頼したほうがいいです。
弁護士に依頼する前に強制執行について簡単に押さえておきましょう。
差し押さえることができる相手の財産
・不動産…土地建物など
・動産…現金や高価な貴金属美術品など
・債権…預貯金や給料など
だから、相手に財産があるのかをちゃんと調べておくことが大切です。
相手の給料を差し押さえるのは非常に有効です
将来支払われる予定の給料についてもあらかじめ差し押さえておくことができます。
たとえば、毎月10万円の養育費を相手が支払ってくれないため、毎月10万円分の給与を差押えてた場合、それ以降、何もしなくても、会社が、毎月10万円を自動的に送金してくれることになります。
ただし、給料の全額を差し押さえると相手方が生活できなくなってしまうので、給与の半額までしか差し押さえることはできません。
また、相手方が退職してしまった場合は、それ以降の給与の差押はできません。
9-5.養育費の保証会社を利用する
養育費の保証サービスを行っている会社がいくつかあるので、保証料の支払いは必要ですが、そのような会社を利用するのも1つの方法です。
養育費の保証サービスを利用すると何をしてくれるの?
保証サービスを利用した場合、養育費が支払われないときは、保証会社が相手に支払いをさいそくしてくれるので、自分で相手方にさいそくをする必要がなくなります。
支払がない場合は、保証会社が養育費を代わりに支払ってくれます。
いつ、どのように保証会社と契約するの?
いろいろなタイプの保証契約があります。
保証の時期
・離婚手続き中に保証会社と契約をするタイプ
・離婚手続き後に養育費が支払われない場合に保証会社と契約をするタイプ
保証契約をする者
・元夫婦の両方が保証会社が契約をするタイプ
・養育費をもらう側だけ保証会社と契約をするタイプ
など
養育費の確保の支援をしている市区町村もある
まだまだ少ないですが、養育費の保証会社を利用する場合に、その保証料を支払ってくれるなど市町村で養育費の確保の支援の取り組みをところもあります。
地方自治体によって実施しているか、どのような内容かが異なるので、離婚の際には、自治体に問い合わせをしてみると良いと思います。