1.財産分与とは?
1-1.財産分与ってなに?
財産分与とは、結婚中に夫婦で協力して作り上げた財産を、離婚のときに分け合うことをいいます。
1-2.財産分与の割合
裁判で財産分与の割合が決められる場合、原則として、夫と妻がそれぞれ2分の1ずつになります。
夫が働いて、妻が専業主婦の場合でも2分の1ずつです。妻も家事や育児をすることによって、夫の仕事を支えたのですから、夫婦の財産を築くのに役立っているといえるからです。
ただし、常に2分の1となるわけではありません。
夫婦の財産を築くのに、夫と妻がそれぞれどの程度、役立っているのかという点を考慮して決めていくことになります。
例えば、夫婦共働きで、夫も妻も同じ程度の月給をもらっていたにもかかわらず、妻が家事・育児全般を1人で行っていた場合には、妻に多く財産分与が行われる可能性があります。
財産分与は、2人の財産を分ける制度だから、離婚の責任があるかどうかは関係ありません。
例えば、妻の不倫が原因で離婚する場合も、妻は原則として2分の1の財産分与を請求することができるよ。
2.どの財産が財産分与の対象となるの?
2-1.財産分与の対象となるもの=共有財産
離婚をする際に財産分与の対象となるのは、夫婦が結婚の期間中に協力して手に入れた一切の財産です。これを「共有財産」といいます。
共有財産かどうかの判断は、財産の名義で決まるのではありません。
例えば、結婚中に貯めたお金で買った家は共有財産です。夫と名前で登記していたとしても、夫婦が結婚中に夫婦が協力して得た財産といえるからです。
2-2.いつ手に入れた財産が共有財産?
結婚中に手に入れた財産は、原則として共有財産であり、財産分与の対象になります。
ただし、離婚前であっても、別居中に手に入れた財産については、財産分与の対象にはならないと考えられています。これは別居中に手に入れた財産は、結婚していても夫婦が協力して得た財産とはいえないからです。
ただし、この「別居」は夫婦関係が壊れたために別居している場合に限ります。夫婦関係は良好ですが、単身赴任などで別居している場合はこれにあてはまりません。
2-3.財産分与の対象となる共有財産の例
・現金
・預貯金
・有価証券(株式・国債など)、投資信託
・不動産(土地・建物など)
・家具・電化製品
・自動車
・金銭的価値の高い品物(骨董品・絵画などの美術品・宝石・着物など)
・ゴルフ会員権など
・保険料(自動車・生命・損害・学資保険など)
・退職金
・年金
2-4.財産分与の対象とならない財産
結婚前から夫あるいは妻が所有していた財産
結婚前に貯めた貯金や、結婚前に買った不動産などは財産分与の対象になりません。
共有財産は結婚中に手に入れた財産でなければならないからです。
相続によって得た財産
相続によって得た財産は、結婚前の相続でも結婚中の相続でも財産分与の対象になりません。
夫婦の協力とは無関係に取得した財産だからです。
夫や妻が自分だけで使っている物(洋服やバッグなど)
夫婦の財産とは言えないので、財産分与の対象となりません。
離婚を前提とした別居中に手に入れた財産
この時点では夫婦関係は壊れているので、夫婦が協力して得た財産とはいえないため、財産分与の対象にはなりません。
ただし、単身赴任などで別居している場合はこれにあてはまりません。
3.財産分与の手続き
3-1.協議離婚、調停離婚の場合
協議離婚や調停離婚のときに、お互いに話し合って財産分与の割合や方法を決めることができます。
この場合は、お互いに話し合って決めるので、財産分与の割合や内容、方法は自由に決められます。
そのため、夫婦で2分の1ずつにする必要はありません。たとえば、妻がすべての財産を取得すると決めるようなこともできます。
3-2.裁判離婚の場合
離婚が当事者の話し合いでまとまらない場合には、離婚訴訟の際に、裁判官が財産分与の額も決められます。この場合は、原則として夫婦で財産を2分の1ずつ分けることになります。
4.財産分与の時期
財産分与は離婚(協議離婚・調停離婚・裁判離婚)と同時に決められることが一般的です。
離婚の際に財産分与の取り決めをしなかった場合であっても、離婚後に財産分与を請求することもできます。
財産分与を請求できる期間は、離婚したときから2年以内です。離婚から2年が過ぎると財産分与を請求できなくなってしまいます。
また、離婚をしてしまうと相手と連絡が取れなくなってしまったり、相手が財産を隠してしまったりすることも多いです。そのため、離婚の時にきちんと財産分与をしたほうがよいです。
5.財産の種類と財産分与の方法
5-1.不動産・自動車の財産分与
売却して分ける場合
まず、不動産や車を売ります。売った値段から、売るときにかかった費用(不動産屋や自動車販売店への手数料、税金など)、ローンが残っている場合はローンの残額を引いて、残った金額を夫婦で2分の1ずつ分けます。
離婚後は夫あるいは妻が1人で所有する場合
離婚するときの評価額を計算します。
土地や建物の場合は不動産業者や不動産鑑定士に、自動車の場合は自動車販売店などに査定してもらいます。
その後の財産分与は以下の2つの方法が考えられます。
●夫あるいは妻が1人で所有する
→相手に不動産や自動車の評価額の2分の1を支払う方法
●不動産や自動車の評価額とその他の財産の評価額をあわせる
→財産全部の評価額の2分の1ずつになるように、現物の財産を分け合う方法
5-2.保険の財産分与
財産分与の対象となるか
自動車の任意保険、夫婦の生命保険、子どもの学資保険など全ての保険は、結婚中に加入していたものであれば、夫名義あるいは妻名義であっても、すべて財産分与の対象となります。
ただし、掛け捨ての保険は、解約したとしてもお金にならないので、財産分与の対象となりません。
財産分与の対象となる部分
結婚前に、夫あるいは妻だけが保険料を支払っていた場合、その期間に対応する解約返戻金は財産分与の対象になりません。
たとえば、夫が結婚前に10年間保険料を支払っていて、その後、結婚中に10年間保険料を支払っていたところ、離婚の際に保険を解約し、保険料が100万円だったとします。
この場合、結婚の期間中の10年間分に相当する額が財産分与の対象となります。
したがって、100万円の半分の50万円が財産分与の対象になり、この50万円を夫婦で2分の1ずつに分けます。
離婚の時に保険を解約する場合の財産分与のやり方
解約して戻ってきた解約返戻金を夫婦で分けます。
離婚後も保険に加入し続ける場合の財産分与のやり方
いずれかの方法をとります。
●もし、離婚のときに解約したとしたら、いくら解約返戻金が戻ってくるのか調べ、その2分の1を相手に支払う方法
●もし、離婚のときに解約したとしたら、いくら解約返戻金が戻ってくるのか調べ、その他の財産の評価額をあわせて、夫と妻がそれぞれ2分の1になるようにして、現物の財産を分け合う方法
5-3.退職金の財産分与
財産分与の対象となる部分は?
働いていた期間のうち、結婚期間(離婚前に別居していた場合は、別居期間を除く)の分だけが共有財産として財産分与の対象となります。
たとえば、働いていた期間が40年で、そのうち結婚していた期間が20年場合は、結婚期間の20年の分の退職金だけが財産分与の対象となります。
退職金が1000万円だったとすると、財産分与の対象となるのは、原則として、1000万円の半分の500万円のみになります。この500万円を夫婦で2分の1ずつ分けます。
離婚前に退職金支払われていた場合、財産分与の対象となるか
退職金が残っているとき
共有財産として財産分与されます。
退職金がすでに生活費などに使われてしてしまっているとき
財産分与の対象とならない可能性が高いです。
離婚時に退職金をまだ受け取っていない場合、財産分与の対象となるか
将来退職金を受け取ることが確実なときは、財産分与の対象となります。
●会社の規定に退職金の支給が定められていない場合
→退職金が支払われない可能性が高いため財産分与の対象となりません。
●会社に倒産の危険性がある場合
→退職金の支払いが確実といえないため、財産分与の対象となりません。
●相手方が転職を繰り返している場合
→退職金が支払われる可能性が低いため、財産分与の対象となりません。
●離婚から退職金の支払い時期まで10年以上ある場合
→財産分与の対象となりにくいです。
将来支払われる退職金の財産分与の計算方法
主に2つの方法がとられています。
今、退職したと仮定して計算する方法
離婚した時(離婚前に別居したときは別居時)に、退職したとみなして退職金を計算する方法もあります。退職金は、就業規則や雇用契約書をなどを元に計算します。
定年退職時に受け取る予定の退職金で計算する場合
定年まで働き、退職した場合に受け取ることができる退職金を計算して、財産分与の対象となる退職金の金額を計算する場合もあります。
5-4.年金の財産分与(年金分割)
将来受け取ることのできる年金も、財産分与の対象です。これを特に「年金分割」といいます。ただし年金の場合も、分割の対象となるのは満額ではなく、結婚期間中の保険料納付分のみとなります。
5-5.家具・電化製品・美術品・宝石・着物などの財産分与
売却して分ける場合
売却価額から現金化する際にかかった経費を引いて、残った金額を夫婦で2分の1ずつ分けます。
離婚後に夫あるいは妻が1人で所有する場合
リサイクルショップ、古物商、美術鑑定士などに査定をしてもらって評価額を出します。
その後の財産分与については、2つの方法が考えられます。
●夫あるいは妻が1人で所有し、相手に評価額の2分の1を支払う方法
●評価額とその他の財産の評価額をあわせて、それぞれ2分の1になるようにして、現物の財産を分け合う方法
5-6.借金と財産分与
借金がある場合の財産分与
結婚している間に夫婦の共同生活のために借り入れた借金がある場合は、その額をマイナスして財産分与を行うことになります。
たとえば、夫が生活費に使うために100万円を銀行から借りていたとします。借金は夫と銀行との間の契約で行われているので、財産分与をしても貸主(銀行)と借主(夫)は変わりません。
ただ、夫婦のプラスの財産の合計からこの借金100万円を引いて、財産分与を行います。
財産分与でマイナスされる借金とは?
〇家族の生活費のため借金
〇家族で使用する車、住居のローン
これらは財産からマイナスして財産分与を行います。
財産分与でマイナスされない借金は?
〇個人の浪費のための借金
夫婦の生活水準に見合わない高級品や趣味の品などを買うための借金は財産分与の対象にはなりません。
〇個人のギャンブルのための借金
〇個人の結婚前の借金
結婚前の借金については財産分与の対象にはなりません。
借金がある場合の財産分与の方法
財産が借金よりも多い場合
財産が債借金よりも多い場合は、財産額から借金を差し引いて、夫婦で2分の1ずつにします。たとえば、現金や貯金、不動産などの財産があわせて300万円、借金が100万円の場合は、借金を差し引いた200万円を夫婦で2分の1ずつ分けます。
財産よりも借金が多い場合
財産はトータルでマイナスになるので、財産分与はされません。
借金は借主である方が負担します。
たとえば、現金、貯金、不動産などの財産が300万円、生活費のために夫が銀行から400万円の借金をした場合、妻は300万円について財産分与を請求することはできません。300万円分の財産は夫の物となります。
しかし、借金400万円は夫が負担したままであり、妻に負担させることはできません。これは銀行が貸主、夫が借主として契約したものなので、契約した人は変更されないからです。
6.財産分与で受け取った財産に、税金はかかるの?
離婚時にもらった財産については、原則として贈与税はかかりません。本来、自分の物だった財産を分けただけだからです。
また、不動産や株式の財産分与の場合は、譲渡取得税がかかる場合もあります。
高額の財産を財産分与する場合は、どうすれば節税できるか、税理士に相談してみてください。